エヌビディア社(ティッカー:NVDA)に投資したいが、ボラティリテイ(株価の変動の大きさ=リスク)が高いために、なかなか勇気を持てないでいる、という方も多いのではないだろうか。米国大統領・議会選、さらには決算を控え、不確実性が高まってきていればなおのこと。実際、株価の値動きに翻弄されてしまった経験のある方も多いことだろう。まずは同じように株価の値動きに翻弄されてしまった株式投資家Aさんの例を見てみよう(これはフィクションである)。
次のチャート(図表1)はNVDAの2023年1月~6月(日足)のものである。株価は分割後のもの。当時の株価はこの10倍。5月の好決算で株価は24%以上もギャップアップした。
【図表1】エヌビディア社2023年1月~6月 日足チャート
出所:Webull Desktop
Aさんは、5月決算時、すでに株価は高すぎると思っていたためにそこでは買えなかった。その悔しさから、その後の決算で、5月同様の大幅上昇を期待し、決算前にロングする(=買う)という作戦を立てた。
【図表2】エヌビディア社2023年6月~12月 日足チャート
出所:Webull Desktop
8月決算(図表2①部分)を控え、株価が500米ドル(現在の株価基準では50米ドル)を目指してじわじわと上がってきたタイミングの約470米ドルのときに100株ロングした(ここではオプション取引との比較のために100株購入)。しかし、株価は500米ドルの壁に跳ね返され、410米ドルまで下落し、あえなく損切り。
その後10月末には9月に次いで2番底を形成したのち、11月下旬の決算に向けて再度上昇を開始。決算プレイを実行(図表2②部分)。決算発表直前に500米ドルを超えてきたところで100株購入して付いていく作戦だ。しかし、またもや鳴かず飛ばずの展開。10%下落したところで(450米ドル付近)あえなく損切り。
さて、その後2024年に入り、再度強く500米ドルを超えてきたが、すでに10,000米ドル近くを失っていたAさんは、再度この500米ドル超えチャレンジには付いていくことはできなかった。(③)
【図表3】エヌビディア社2023年10月~2024年6月 日足チャート
出所:Webull Desktop
その後株価は上昇の一途をたどる。Aさんは気を取り直して2024年2月決算(2月21日引け後発表)での上昇を期待し、2月14日に700米ドルを超えてきたところで再度チャレンジした(約740米ドルでロング)。しかし発表日の21日までにエントリーから10%を超える下落となりあえなく損切りして様子見へ。ヘッドフェイク! 株価急上昇、16%を超える上昇となった。
このように株式投資は難しい。短期的なトレードではなかなかうまくいかないもの。
そこで、もしこの時「コールオプション」を使っていたらどうだろうか、という話である。
株価の上昇を予想するのでコールオプション(=株を買う権利)を買う。今、株を買うのではなく、「いくらいくらで株を買える権利」を買うのである。いわば株を買う予約(=手付け)である。株自体ではなく、単なる権利金(=手付金)であるから、株式を買うよりはその額は安いはずだ。その予約の有効期間が長ければ長いほど権利金は高くなるが、それでも、株を買う代金よりはだいぶ安い。
しかも、株が下がったら買わなくてよい(手付金は戻ってはこないが)。例えば、上記の例(図表3)で2024年2月1日に次の2月21日の決算で700米ドルを超えてくるという予想をして、3月15日まで有効なC700(700米ドルで100株買える権利)を買ってみることにしよう。当時のNVDA株価は約630米ドル。
100株買うには63,000米ドルが必要だ。一方C700であれば、わずか14.8米ドル(実際には支払うのは100倍の1,480米ドル)でよい。株を買う代金のわずか2.3%だ。このコールオプションを持っていれば予想通り株価が上がったところで、その権利を行使して、約束の価格で株を買うことができる。これが効果を発揮するのは株価が700米ドルを超えてきたときだ。
株価が例えば800米ドルまで上昇した場合には、保有しているC700を権利行使すれば、市場価格800米ドルの株を700米ドルで買うことができるのである(もちろんこの時には100株購入する代金70,000米ドルを用意しておかなければならない)。
このときC700には100米ドルの経済的価値がある。よって70,000米ドル用意してC700の権利を行使するのではなく、C700を100米ドル(100倍の10,000米ドル)程度で誰かに売却することも可能だ。つまり、70,000米ドルも用意できないという人でもコールオプション自体を売買することで、数百米ドル~数千米ドル程度でNVDAを取引できる可能性があるということである。
【図表4】2024年2月1日時点の3月15日満期C700満期損益図
出所:https://marketchameleon.com/Overview/NVDA/OptionChain/
C700を満期に転売する場合の経済的価値を示すものが図表4だ。横軸が原資産(=NVDA株)の水準、縦軸が損益である(株価が700米ドルを超えている場合には株を100株買えるだけの資金が無ければ満期直前までC700を保有しておくことはできず、引け数時時間前までに売却する必要がある)。
株価が700米ドルを超えてくると、グラフが立ち上がってきて、714.8ドル(権利行使価格700米ドルに当初支払った金額14.8ドルを加えた地点=損益分岐点)を上回るところから利益が出始める。株価が上がれば上がるほどこのC700は利益が増えていく(右肩上がりのグラフとなる)。横軸株価800米ドル付近の縦軸(=損益)を見てみると約10,000ドルの目盛があることがわかるだろう。厳密にいえば、このC700には10,000米ドルの経済価値はあるが、当初1,480米ドル支払っているので、利益はといえば、10,000-1,480=8,520米ドルということになる。
株価が700米ドルを上回れない場合は、このC700は全くの無価値となり、購入する際に支払った1,480ドルをすべて失うことになるものの、これは100株購入するのに必要な金額のわずか2.4%の資金であり、この金額を失っても大丈夫なのであれば、途中の株価の変動に一喜一憂する必要がなくなるのだ(損切り不要にできる)。確かに、2月1日エントリー後に上昇した後、決算前に下落したが、このコールオプションを使っていれば、そのような多少の上げ下げに翻弄されることはなかっただろう。
【図表5】C700価格チャート
出所:https://marketchameleon.com/Overview/NVDA/OptionChain/
14.8米ドル(計1,480米ドル)で購入したC700は、株価の上昇に伴ってオプション価格も上昇。2月21日までに一旦は大きく値下がりしたものの、決算後の株価上昇により満期3月15日引け直前(株価約米878ドル)では何と177.63米ドル(計17,763米ドル)まで上昇した。
この時点で70,000米ドル用意できているならば、C700を権利行使して(または満期を通過させて自動権利行使により)市場価格878米ドル(100株で87,800米ドル)の株を700米ドル(70,000米ドル)で購入するのもよい(買った瞬間に含み益が17,800米ドル程度出ている状態になる)が、資金を用意できないならば、あるいは株をそもそも買うつもりが無ければ、C700自体をオプション市場で、178米ドル前後(計17,800米ドル前後)で売却すればよい。1,480米ドルで買ったものが17,800米ドルになったのであるから、16,300ドル近い利益が出たことになる(テンバガー!?)。
さて、これからの話をしよう。
エヌビディア社は2024年11月20日前後に決算発表を控え、その前には2024年11月5日は米国大統領・議会選挙がある。図表6は現時点のNVDAのチャートである(現在値:株式分割後の価格)が、140米ドルの抵抗線をとらえうつあるタイミングにある。140米ドルの壁に跳ね返される可能性もある。
選挙結果において最もネガティブな市場インパクトがあるとされる民主党スィープとなるかもしれない。選挙結果は誰にもわからない。不確実性の支配するタイミングだ。それでもNVDAは上昇すると思うのであればコールを買ってみよう。
【図表6】エヌビディア社2024年(~10月18日)日足チャート
出所:Webull Desktop
現状は2023年類似の相場展開である。大相場を演じた後の踊り場。140米ドルラインを超えて再度の大相場になるか、といったところだ。ここで株を買うのもよいが、相場に翻弄される可能性がある。そこでコールオプションを買うわけだが、例えば2025年1月17日満期のC160あたりを眺めてみよう。
【図表7】2025年1月17日満期NVDAコールオプション価格表
出所:https://app.webull.com/stocks
BIDが買い気配、ASKが売り気配だ。ASK価格(7.00米ドル)であればすぐに買える。BIDとASKの中値(6.95米ドル)に指値をするのも有効だ。誰かが売ってくれる可能性がある。仮に中値6.95米ドルで買えたとしよう。100倍の695米ドルの支払いだ。100株であれば14,000米ドル程度必要なことに比べて、はるかに小さな資金でエントリーできることがわかるだろう。
【図表8】2024年10月18日時点の2025年1月17日満期C160満期損益図
出所:https://marketchameleon.com/Overview/NVDA/OptionChain/
年末年始200米ドルまで行ったとすれば、このC160は40米ドル(計4,000米ドル)程度で売却できる。695米ドルで買ったものが4,000米ドルになるわけだ。3,300米ドル近い利益になる。一方で失うのは695米ドルに過ぎない。不確実性に支配される現状において、ひとまず打診買い的にコールオプションを入れておくというのも面白いのではないだろうか。
株式会社M&F Asset Architect(オプショントレード普及協会)代表 守屋史章