仮に株式Aと株式Bが現在同じ価格の100ドルで取引されているとします。しかし、株式Aのコール・オプションと株式Bのコール・オプションは同じ権利行使価格と満期日であってもプレミアム(オプション価格)が異なっているかもしれません。
なぜ、このようなことになる可能性があるのでしょうか? 答えは、株式のボラティリティにあるかもしれません。
ボラティリティは、特定の期間における株式などの価格変動の度合いを示す指標です。
ボラティリティが高いと、株価は時間の経過とともにより変動する傾向があります。ボラティリティが低いと、株価はより安定している傾向があります。
下図の仮想ケースは、2つの銘柄の12ヵ月間の価格推移を示しています。両方とも100ドルから始まり100ドルで終わっているにもかかわらず、株式Bは株式Aよりもこの間の価格変動が大きくなっています。
実務では、トレーダーはヒストリカル・ボラティリティ(HV)を使って、株価がその平均からどれだけ乖離して動いてきたかを測定することができます。多くの場合、ヒストリカル・ボラティリティは過去の価格の変動率をもとにして計算される指標で、統計学にある標準偏差(σ)を用います。
ヒストリカル・ボラティリティは、株価が上下に大きく変動すると上昇するものであり、株価の動きの方向性を示すものではありません。ヒストリカル・ボラティリティは過去を振り返る指標で、過去における証券価格のボラティリティを反映します。したがって、将来の株価の動きを予測する上で必ずしも信頼できる指標になるとは限りません。
ヒストリカル・ボラティリティが原資産の過去の価格変動から計算されるのに対し、インプライド・ボラティリティ(IV、予想変動率)は、市場で取引されている実際のオプション価格から逆算して導き出されます。
オプションのインプライド・ボラティリティの計算には、ブラック・ショールズ・モデルをはじめ、多くの方法やモデルがあります。これらのモデルは、オプションの現在の市場価格に加え、現在の原資産の価格、金利、オプションの満期日までの残り時間など、原資産などに関する一定の前提を使用して、インプライド・ボラティリティを算出します。
例えば、市場でABCコール・オプションに対する需要が高まり、ABCコール・オプションの価格が上昇したとします。他の条件がすべて同じであれば、オプション価格の上昇はコール・オプションのインプライド・ボラティリティの上昇につながります。
オプション価格は需給によって決まるため、インプライド・ボラティリティは、オプションの有効期間中の原資産の将来のボラティリティに関する市場のコンセンサスを表していると想定されます。オプション・チェーンのページでは、特定の原資産に関するすべてのオプションについて、リアルタイムのインプライド・ボラティリティデータ(CBOE Hanweckによる)を確認することができます。
原資産が同じであっても、各オプションには独自のインプライド・ボラティリティがあります。オプション価格に影響を与える要因は、権利行使価格や満期日によって異なり、その中にインプライド・ボラティリティも含まれるのです。
トレーダーは、特定の銘柄のすべてのオプションについて、包括的なインプライド・ボラティリティを近似するように設計された数式や計算を参照する場合もありますが、そのようなすべてを包括するような計算は難しく、そこには主観的な価値判断が組み込まれている可能性もあります。
このような包括的なインプライド・ボラティリティを計算する1つの方法は、個々のインプライド・ボラティリティ値を他の基準と比較し、加重平均することです。オプションの出来高や建玉量に重みを置く計算方法もあれば、アット・ザ・マネーのオプションに最も重みを置く計算方法もあります。最も一般的なやり方はアット・ザ・マネーのオプションを重視する計算方法です。
インプライド・ボラティリティの指標に一貫性があれば、十分な情報に基づいた投資判断が可能になります。例えば、ある証券のインプライド・ボラティリティが相対的に高い場合、それは一般的に市場は株価の変動が大きいと予想していることを示しています。このような時は、市場心理に同意するかどうかにかかわらず、相応に自分の投資戦略を調整することをお勧めします。インプライド・ボラティリティが提供する市場の見方に関する情報は、まさにその助けとなることでしょう。
ある銘柄のインプライド・ボラティリティは、市場の状況やその他の要因によって時間の経過とともに変化します。取引戦略を立てるために使用する他の指標と同様に、当該銘柄のインプライド・ボラティリティを定期的に確認し、必要な調整を行うことが重要です。
ヒストリカル・ボラティリティとインプライド・ボラティリティは、いずれも投資家やトレーダーにとって有用な指標です。
ヒストリカル・ボラティリティは過去の姿を示す指標で、その銘柄が過去にどのような動きをしたかを見るのに役立ちます。また、現在のトレンドの規則性を見極めるのに役立つ背景情報も提供します。
一方、インプライド・ボラティリティは、市場のセンチメントを測り、株式やオプションが持つ潜在的なリスクを評価するのに役立つ、将来の動きを見据えた指標です。